2006年6月4日日曜日

【民主党第三者委員会】 総務省

【総務省担当者からのヒアリング】

行政企画局政治資金課課長補佐 市川 靖之 氏

(質問 .1)
-(政治資金)収支報告書上、寄附の内訳への記載が求められる寄附者の氏名について、資金の拠出者と実際に寄附を行った者とが相違する場合に、資金の拠出者を記載することが求められているのか。
(回答)
-総務省に問い合わせてもらっても、寄附をした者を書いてくださいとしか言えない。会計責任者が法の趣旨に則り実態を把握して記載してくださいとしか言えない。

(質問 .2)
-政治資金規正法上、寄附者となることができない政治団体は存在するのか。仮に存在するのであれば、どのような政治団体が該当するのか。
(回答)
-政治団体の定義は、資料の3条等で法律上定義されている。また、寄附をできない政治団体は、設立届けを出していない政治団体、二年間収支報告を行っていない政治団体である(3条、5条、6条、17条2項等について説明)。

(質問 .3)
-ある企業・団体が、人員、資金などをすべて負担して政治団体を設立し、完全に支配している場合、その政治団体が行った寄附については、政治資金収支報告書には、「寄附者」をどのように記載すればよいのか。
(回答)
-個別の事案については回答できないが、完全に支配しているという意味も明確ではなく回答しにくいが、政治団体であればこの法律の趣旨に則って報告書の記載・提出をお願いしたい。

(質問 .4)
-政治資金規正法22条の6に定める「本人の名義以外の名義・・で」、「匿名で」とは、それぞれどのような行為を言うのか。
(回答)
-本人の名義以外の名義を使うケース、氏名等を表示しないケースが該当する。

【委員会側コメント】
 「政治資金の寄附についてAが資金を出して、その資金でBが寄附をしてきたという場合、それを受け取った政治団体の会計責任者は、収支報告書に寄附者としてAを記載すれば良いのかBを記載すれば良いのか」との質問を、総務省担当者に対して繰り返し行ったが、「法の趣旨に則り、実態に基づいて適切に記載して頂きたい」との回答を繰り返すばかりであった。これでは、全国に無数に存在する政治団体、政党、政党支部の会計担当は、寄附者について収支報告書にどう記載したら良いのかまったくわからない。それを会計責任者が自分で判断し、間違っていたら罰則が適用されるというのでは、とても会計責任者はやっていられない。これは、今回の事件を機に検討が開始されている、企業団体献金の全面禁止をめぐる議論にも重大な影響を与えかねない(個人献金も、その資金の出所がわからないと受け取れないということになる)。

 政治資金規正法の解釈・運用に関して重大な問題があることが、今回のヒアリングで明らかになったというべきであろう。

政治資金規正法を所管する総務省の担当者(自治行政局選挙部政治資金課の市川課長補佐)が出席。

委員たちは、この法律が収支報告書に記載せよと定める「寄付者」が、形式的に寄付行為を行った者なのか、それとも実際のカネの出所か、どちらを指すのか明確にしようとしている。

しかし、判明したのは、この法律は非常にあいまいな部分が多く、場合によっては捜査当局が都合良く運用しうる、ということだった。

西松事件において、2つの政治団体(=寄付行為者)が報告書に記載されているのだから、西松建設(=資金拠出者)が伏せられたことに問題はなかったと明言してきた委員の1人、郷原氏は、ちょっとげんなりしたのではないだろうか。

◆罰則規定があいまい

郷原氏(G)と総務省担当者(A)のやり取りはこう。

G:我々が聞きたかったのは、寄付の行為者と資金の拠出者が違う場合、寄付の行為者だけでなく資金の拠出者も収支報告書にも書かなければならないのか?

A:拠出というのが、多種多様な世の中、形態がある。拠出という一語を持って、先生が考えているような結論になるかどうかは定かではない。

G:要するに、寄付をしたという金銭の移転という外形的行為をした人を書けということで、それ以外の人を書けとは政治資金規正法は求めていないのでは?

A:法律のことしか我々は言えないが、寄付というのはこういう定義で、寄付をした者を記載しろとなっている。

G:ということですよね。それ以外の人を書けとはなっていないんですよね。

A:寄付をした者を記載しなさいとなっている。
(委員苦笑)

G:その寄付をした者の意味は供与と交付とあるわけで、外形的に金銭を移転させる行為を自分の名前で行う場合……。

A:まあ、条文上は外形的にとは明文としては書いていない。金銭物品その他財産上の利益の供与または交付という風に書いている。

G:とすると、単純化して言った場合、Aという人がBという人にお金を渡して、Bという人が政治団体や政党などに寄付した場合、それを受け取った側は、もしお金が出ているのは実はBじゃなくてAなんだとある程度認識していた場合、どう収支報告書に記載すべきか尋ねられたら、どう答えるのか。

A:我々としては、寄付はこういう定義で、寄付をした者を記載してくださいと答える。

こうした役人然とした煮え切らない対応に、郷原氏は当然、こう突っ込む。

「行政庁が基本的にこうすべきだという解釈を示すべきだと思う。それがなければ、罰則の適用を捜査機関、司法当局がどうにでも解釈してしまう」

委員たちにあれこれ言われ、総務省担当者は最後はこう嘆く。

「(政治資金規正法は)議員立法で、主たる改正も国会で議論されたという経緯を考えると、何というのか、政府提案の法律に比べると、言い難い部分があるが……」

つまり、自民の議員先生方が勝手に穴だらけの法律を作ったんだから、役人側としては何とも言えない部分があるんだ、と。

「トンネル献金」など日常茶飯事の自民党の先生方が、自分たちが摘発されないように抜け道のある法律をつくったわけだから、法解釈があいまいになるのは当然なのだ。


以下、もう少し詳しいテープ起こし。

※A=総務省担当者、G=郷原信郎・名城大教授、S=桜井敬子・学習院大教授、I=飯尾潤・政策研究大学院大教授

G:金銭が移転する、経済的利益が移転する、という場合の広く含む概念が「寄付」ではないのか。
A:供与、交付どちらも含むので、おっしゃる通りだろう。
G:我々が聞きたかったのは、寄付の行為者と資金の拠出者が違う場合、寄付の行為者だけでなく資金の拠出者も収支報告書にも書かなければならないのか? 資金の拠出者が違う場合であっても、記載しなくて良いのか?
A:拠出というのが、多種多様な世の中、形態がある。拠出という一語を持って、先生が考えているような結論になるかどうかは定かではない。
G:要するに、寄付をしたという金銭の移転という外形的行為をした人を書けということで、それ以外の人を書けとは政治資金規正法は求めていないのでは?
A:法律のことしか我々は言えないが、寄付というのはこういう定義で、寄付をした者を記載しろとなっている。
G:ということですよね。それ以外の人を書けとはなっていないんですよね。
A:寄付をした者を記載しなさいとなっている。
(苦笑)
G:その寄付をした者の意味は供与と交付とあるわけで、外形的に金銭を移転させる行為を自分の名前で行う場合……。
A:まあ、条文上は外形的にとは明文としては書いていない。金銭物品その他財産上の利益の供与または交付という風に書いている。
G:とすると、単純化して言った場合、Aという人がBという人にお金を渡して、Bという人が政治団体や政党などに寄付した場合、それを受け取った側は、もしお金が出ているのは実はBじゃなくてAなんだとある程度認識していた場合、どう収支報告書に記載すべきか尋ねられたら、どう答えるのか。
A:我々としては、寄付はこういう定義で、寄付をした者を記載してくださいと答える。
G:それ以上に、収支報告書に記載すべき人はこういう意味なんだとは教えないということ?
A:教えないというか、条文としてはここまでしか書いていないので、個々具体の資金の拠出の形態がさまざまあるのは容易に想像されますし、用件を我々が個々具体的に把握するのは不可能なので、法律上はこうなっているという紹介にとどまるしかない。
S:そうすると、形式が整っていることに行政、総務省としては関心を置いて法の運用をしていると理解してよいのか?
A:そこはですね、関心があるというより、非常に政治活動の自由と密接に関係しているので、行政府がこの政治団体の活動に一般的に考えて関与するのはいかがかという風に考えている。ですから、法律上の書類上の形式審査しか認められていないんだろうと考えている。関心がないというより、法律上、そういう権限しかないと。
(略)
A:補足して説明すると、基本理念、この法律の基本的な考え方は、収支の状況を明らかにすることをむねとし、これに対する判断は国民にゆだねる。適切に執行していくことが我々の考えだろうと。
G:その収支の状況を明らかにするというのが、どこまで求められているのかが分からないと、どうやっていいのか分からないということになると思うが。収支報告書を提出する方は。どう記載すればよいか疑問に思った場合は、どこに聞けば良いのか。
A:我々も法律に書いてある範囲でお答えする。
G:そのときに、非常に迷うと思う。資金の拠出者と寄付の外形的行為をした人が違う時には、どうしたらいいのかと聞いて、法律に書いてある通りと言われても、書きようがないとなってしまうと思う。これじゃ収支報告書我々書けませんと言われたらどうするのか。
A:収支報告書を作成するのは会計責任者なので、そこは法律の趣旨に乗っ取って会計責任者が判断してもらう。
G:会計責任者が、この法律上求められている義務がどういうことなのか分からないとなった場合、誰かに教えてもらわなければならない。どうするのか。
A:繰り返しになるが、我々としては寄付の定義を述べ、その寄付をした人を記載してくださいと言うにとどまる。
I:それはやっぱり寄付する人がそういう風にその趣旨に対してきちんと行動するということですね?
A:はい。2条2項に書かれているが、政治団体はその責任を自覚し、政治資金の収支に当たってはいやしくも国民の疑惑を招かないよう法律に基づき公明正大に行わなければならないという基本理念がある。そこに基づいて会計責任者が適切に判断してもらいたい。
S:じゃあ、自己責任でやってくれということですか? 罰則があるので、構成要件としての意味合いもありますよね? その法の解釈が。予測可能性が担当者の人には答えられない感じがするのだが。関連して29条に、報告書の真実性の確保のための措置とあるが、真実性とは何か。定義は。
A:実態に即して記載していただくということ。
S:実態とはどこまでが実態か?
A:実態を把握しているのが会計責任者。
G:まさにその通りだが、でも、何が求められているのか分からなければ、実態をどう表現していいのか分からないのでは。
S:だから、25条の虚偽記入の「虚偽」の概念がまさに問題になるのだが、そこをどうするかで刑罰を受けるかもしれないという、そういう制裁がありうるという中で(会計責任者は)記載しなければならない。(しかし)具体的な基準が示されていないことになるが。
(略)
G:本来どう罰則が適用されるかということは、政治資金規正法のルールの周知が徹底されて、それを守っていればいいんだけれども、意図的に守らない政治団体とか会計責任者がいれば罰則を適用しますよ、となるはず。ですから、行政庁が基本的にこうすべきだという解釈を示すべきだと思う。それがなければ、罰則の適用を捜査機関、司法当局がどうにでも解釈してしまう。まずは総務省として寄付が何を意味するのか、供与が何を意味するのか、交付が何を意味するのかという条文の意味を説明するのが普通だろうと思うが。
A:議員立法で、主たる改正も国会で議論されたという経緯を考えると、何というのか、政府提案の法律に比べると、言い難い部分があるが……。