2010年6月11日金曜日

【菅政権】 さとうしゅういち氏寄稿を読む

 地方からの観点で菅政権を、さとうしゅういち氏がJANJANに寄稿をしている。この記事を読みながら、今の政府の問題点が語られているように思えてします。



地方の一民主党員は菅政権をこう見る


 6月8日発足した菅直人内閣。

 枝野幸男さんが幹事長、仙谷由人さんが官房長官と、それぞれ党と政府の要に座りました。

 一方、亀井静香郵政担当大臣が11日、郵政改革法が今国会で成立できなかったこと(民主党の意向によりますが)の責任を取り、辞任。ただし、国民新党は連立にとどまります。

■「旧民主党色が濃い内閣」

わたしは、今回の内閣の布陣や、菅総理のご発言、さらには、反貧困関係の識者などの評価を拝見し、以下のような感想を持ちました。

「この内閣は、良くも悪くも1996年に結成された当初の民主党の色彩が濃い」。

 どういうことか?
 
 1996年は、日本社会党が空中分解した年です。社会党のメンバーは、社民党に残った人たち、新社会党(社会主義政党)をつくった人たち、そして、1996年10月の総選挙を前に、民主党に合流した人たちに三分裂しました。

 社会党(社民党)から離れた仙谷さんらと、さきがけを離れた鳩山由紀夫さん、枝野幸男さん、菅直人さんらが合流して民主党を結党しました。

 当時の二大政党は自民党(社民、さきがけと連立)、そして、野党第一党の新進党でした。新進党党首は小沢一郎さん。新進党は、小沢さん、樽床伸二さんら新自由主義者、旧民社系ないし大手企業労組、そして公明党・創価学会などから構成されていました。

 民主党は、当時の自民党も社民党(当時はまだ自治労や日教組が支持していた)や新進党を支持した大手労組もあまり取り上げなかった情報公開や公共事業の無駄の問題にかなり切り込んでいた、と記憶しています。仙谷さん、菅さんが結構活躍されていた。

 旧民主党の支持基盤は、大都市(東京、大阪など)の近郊のリベラルな中間層でした。中流以上のサラリーマンや、当時、一世を風靡した「生活者ネット」(議員には、東大や京大などご出身で専業主婦と言う方がけっこうおられる)を支持するようなインテリ家庭の主婦らと重なり合います(今でも、生活者ネットが都議選で民主党候補を推薦している)。菅総理も枝野さんも上記のような方を支持基盤としていました。そういう方々が今回、主導権を握っておられるように見えます。

■【労組】【小沢】合流で「とりあえず自民打倒」

 ただ、「それだけ」では、「政権を取る」までの勢力にはなりえなかったのです。民主党もその後、1998年春に空中分解した新進党から流れ出た旧民社党(大手企業労組)や保守系議員(当時反小沢)が合流し新民主党を結成。これをみた自治労など旧総評系の組合も社民党から民主党に乗り換えた(広島県の場合)のです。

 さらに民主党は2003年に、小沢一郎さん率いる自由党と合併しました。このとき、ちなみに小沢さんは、経済政策を農村寄り、旧社民党グループよりにしたのです。

 旧民社党ないし労組の組織や、小沢さんの手腕は、たしかに民主党が政権を取るのには大きく役立ちました。2006年に小沢さんが代表になった際、民主党の経済政策が大きく社民主義的になりました。

 1996年当時民主党を結成したメンバーはどちらかといえば、闊達な議論は好むのですが、それなりに余裕がある層が支持基盤だったために、意外と経済政策は新自由主義的な場合も多かった。そして、2001年に自民党総裁・総理になった小泉さんに、お株を奪われてしまった。もちろん、旧民主党メンバーはどちらかといえば、「(田舎の)公共事業削って福祉や教育へ」という政策傾向だったのですが、「田舎の事業を削る」というところだけを、小泉さんがいいとこどりしてしまった。

そうしたなか、小沢さん(彼も昔は新自由主義者でしたが)が、小泉さんにより広がっ貧困や、地方の疲弊に応えるような軸を打ち出したのです。

とにかく、2007年参院選、2009年衆院選では、小沢さんや労働組合の力も合わせて自民党を倒し、政権交代を果しました。
自民党はいわば、高度成長と冷戦を前提とした「反共の利益配分団体」でした。冷戦も高度成長も終わった今、「30年遅れの存在」となっていた。その30年遅れの存在を打倒したこと自体はよかった。

■旧民社・大手労組も「20年古い」

 ただ、旧民社党ないし大手企業労組幹部(平野官房長官ら)の意向を過剰に受け入れると、これは、民主党に期待した人を裏切ることになります。

 大手労組も、結局は、自民党体制の下で、自民党にすがることで生き延びてきたと、批判されても仕方がない実態がある。

 ある意味、自民党が倒れれば、大きな変革を迫られるわけです。大手企業の意向を労組も過剰に代弁しているのではないか、といわれてもしかたがない?
 
 派遣労働者などを使い捨てにし、法人税を下げるなどしないとやっていけないような企業をいつまでも優遇していて良いのか?ワークシェアリングや同一価値労働同一賃金を実施したり、新しい産業を興さないといけないのではないか?そういう意味での改革に抵抗するのであれば、厳しく言えば20年遅れくらいの存在です。

 小沢さんの場合は、「20年前は自民党幹事長」だったイメージがついて回ってしまう。もちろん、検察審査会で「起訴相当」とされた被疑事実は、これは、乱暴な認定を審査会はしたと思います。購入と登記が数ヶ月ずれることなんて、良くある話です。それを「起訴相当」とは感情論過ぎる。

 しかし、運動論的に見た場合、金集めや人材育成、選挙戦術などを「小沢さんにばかり」頼りきるのは近代政党としてほめられたものではない。

■新執行部も世界から見れば10年遅れ?

 枝野さんも菅さんも、厳しくいえば、世界の時流からみれば、やや時代遅れだったかもしれません。
 
 菅さんが強調する「第三の道」は、イギリスの13年前に誕生したブレア政権の政策がモデルです。(注:ただし、イギリスにおける「第三の道」は、「労働党(社会主義)」でも「保守党(サッチャーリズム・新保守主義)」でもないという意味で、当時の菅さんもそれを意識していた。現在の菅さんは「第一の道=土建国家」でもない、「第二の道=小泉政治」でもないという意味で主張しておられます。)

 ただ、繰り返しますが、日本の場合、自民党という、「冷戦と高度成長を存在意義としていた「三十年前」の遺物」が、居座っていました。

ですから、小沢さんらの力もあわせて、自民党を倒すのは必要でしたし、「1996年の大都市近郊リベラル層を代弁していた時代の民主党」の系譜にあたる菅さん、枝野さん的な要素も、「歴史のプロセス」としては必要になる、と思います。

 たとえば、枝野新幹事長は、幹事長就任の記者会見で「自分は企業団体献金を今日から一切受け取らない」と表明しています。

2010/06/07
新しい内閣を政権与党として全力を挙げて支えていく 枝野新幹事長が就任会見で
http://www.dpj.or.jp/news/?num=18318

 企業団体献金は、十年前に禁止されるはずだったのに、政党支部長なら受けられるという抜け道を当時の自民・自由(小沢党首)公明政権は作ってしまった。

 それを、枝野幹事長自ら「企業団体献金は受け取らない」とし、歴史の針を「三十年遅れ」から「十年遅れ」に進めた点は評価します。


枝野幹事長。貧困問題には理解があるという。地方住民の声にも一層、耳を澄ませていただきたい。
 企業献金を通じて、経団連は、自民党の政策に影響を与え、今の貧困問題を招いた、といっても過言ではないのですから・・。

■貧困拡大・地方の疲弊に耳を澄ませて!

一民主党員として、旧民主党メンバーを軸とする現執行部の課題は、以下だと思います。

これは、広島県の中規模都市や山間部で労働・介護・医療などの行政に携わり、また野宿者支援や反貧困のボランティア活動に従事してきた者として、「都会の中間層中心」の政府幹部の皆さんへの「要望・苦言」でもあります。

彼らが一世を風靡した時代より、橋本龍太郎さん(消費税増税)、小渕恵三さん(お金持ち減税,労働者派遣法緩和)や小泉純一郎さん(中小企業からの貸しは餓死、地方交付税カット・・)らのおかげで、貧困は拡大しています。地方の疲弊も進んだ。こうしたことへの対応が最大の課題になります。

 ご自身らのおおもとの基盤である大都市近郊リベラル中間層だけでなく、幅広く低所得者や地方の声にも耳をすませていただきたい、と思います。

 わたしは、旧民主党(や生活者ネット)を否定しているわけではない。旧民主党は自民党にも労組にもなかったような視点がたしかにあったとおもいます。旧民主党を地方レベルで支えた生活者ネットも、一世を風靡した当時は、男性ばかりでどうしようもなかった地方議会を変えた功績はあった。問題は、「今、新たに噴出した」問題に対応できるかどうかです。

雨宮処凛さんによると、枝野さん、仙谷さんは、貧困問題には理解がありそう、ということです。

新内閣と生活保護裁判。の巻
http://www.magazine9.jp/karin/100609/

 問題は、貧困撲滅と矛盾のない経済政策を実行できるか、です。

 マスコミや自民党などが主張する消費税増税を先行させれば、菅総理のおっしゃる「最小不幸社会」に反することになりかねない。

 あるいは、地方が疲弊する中で、政権が「地域主権」に教条的にこだわれば、自治体ごとに貧困対策に差が出てしまい、やはり「最小不幸社会」に反することになりかねません。

 地方の疲弊に伴い、地方で食えなくなった人が都会で派遣労働などに従事している実態もあるのです。都市の貧困問題と地方の疲弊を一体として捉えていただきたい。

 「独立系メーデー」にご出席いただいた福島国務大臣が罷免され、社民党が連立を離脱。さらに農村出身の小沢さんが幹事長から降り、同じく、農山村を地盤とする亀井静香さんが大臣をおやめになった。

 その途端、「地方の庶民の声が届かなくなる」事態にならないようにお願いしたい。間違っても「小沢憎し」のあまり、地方切捨てや、庶民増税に走らないようにしていただきたい。